YUMINOのひと - 医師 肥後太基 -
2023年に入り、YUMINOには13名の医師が入職しました。その中の一人で、九州地方で重症心不全患者への補助人工心臓の在宅管理モデル構築に尽力され、YUMINOでは高田馬場院と渋谷院の訪問診療、福岡院の外来診療に携わる肥後太基医師にお話を伺いました。
-ご出身地について教えてください。
- 鹿児島県の奄美大島です。当時、島の北部にはおよそ1万5,000人が住んでいましたが、医師は私の父だけ。まるで『Dr.コトー診療所』の世界観そのものです。交通手段も発達していないなか、患者さん一人ひとりと向き合う父の姿を目の当たりにしていたので、地域医療の重要性は子どもながらに感じていました。
-お父様は、島で訪問診療も行われていたんですか?
- 専門は麻酔科でしたが、地域で唯一の医師なので当然"何でも屋"です。1日80~100人ぐらいの外来患者さんをみた後、診療所に来られない患者さんのお宅を周っていました。私は父親っ子だったので、車に同乗して訪問診療によくついていきました。ときには、お宅に上がらせていただくことも。ご家族にお菓子をもらったり、お子さんと遊んだりしたのは、いい思い出です。
-肥後先生が医療の道を志したのは、幼少期のご経験が大きく影響しているのでしょうか?
- 印象に残っているのは、歩行困難な患者さんを、ご家族がリヤカーに布団を敷いて連れてきたこと。地域における医療の必要性を強く感じました。地域の方から子どもである私にまで父に対する感謝の言葉をいただいていたこと、また、父自身も「地域住民の方々から感謝の言葉をいただけた時にこそやりがいを感じる」と話していたこともあり、医師を目指そうという気持ちには自然となりましたね。
-さまざまな専門科目があるなかで、なぜ循環器科を選ばれたのでしょうか。
- 命の危機にさらされている方を目の前にした時に動じない医者でありたい、という意識を学生のころから持っていました。そこで、父の専門であった麻酔科、循環器科、救急救命医のいずれかを目指そうと思ったのですが、父がある日ポツリと発した「麻酔科は患者さんとあまり話せないんだよなぁ」という言葉が記憶に残っていたんです。急性期からそのあとの回復期、そして最後の最後までずっと患者さんと向き合い続けられる――。そこを魅力に感じて、循環器の道を進むことにしました。
-以降、長年にわたり循環器の分野でご活躍されてきたなかで、九州全体の補助人工心臓(VAD)の在宅管理モデルを構築されるに至った経緯を教えてください。
- 医療の地域格差をなくすためです。九州大学を卒業後、大学の関連病院や国立循環器病センターなどでの勤務を経て大学に戻り、心臓移植に関わるようになった頃、植込型補助人工心臓治療が医療保険で認められました。しかし当時、患者さんは補助人工心臓を入れた施設から2時間以内でアクセスできる場所に居住しなければいけないという臨床治験の時からのルールがあったんです。関東や関西と比較して交通事情の悪い九州においてはとても厳しい条件で、重症の心不全患者さんが九州に住んでいるという理由で適切な医療を受けることができない可能性があることに危機感を持ちました。
-そのような苦境を、いかにして乗り越えられたのでしょうか。
- 日本よりも補助人工心臓が普及しているアメリカの例を調べ、広域で医療連携をして補助人工心臓を管理していることを知りました。ならば九州でも、と地域の医療機関との連携を推し進め補助人工心臓患者さんを一緒に管理する体制を構築しようと考えました。そうすることで、患者さんは元々住んでいた家で療養できます。その実現のために九州全域で重症心不全治療の啓発活動を進めました。実際に補助人工心臓を装着した患者さんの姿を見ていただいて治療のパワーを感じていただいたり、各地域に医師、看護師、臨床工学技士が直接出向いて多職種に対して補助人工心臓治療を説明し協力をお願いしたりすることを繰り返しました。そうすることで広域での補助人工心臓治療の医療連携も浸透していきました。
-YUMINOに入職されたきっかけを教えてください。
- YUMINOの存在は開院初期の頃から知っており、都市部に住む心不全患者さんの在宅医療を重要視している点に大いに共感していました。YUMINOが大阪にクリニックを開院した頃に弓野理事長とお話する機会がありました。そこで、「肥後先生の目指すゴールは、一人でやるよりも、私たちと一緒に取り組むことでより早く実現できると思います」とお声がけいただいたことを機に、医療の地域間・地域内格差をなくす、という私の目的を果たすためには何が一番大事か、どう実現するか、そこに私がどう関わるかを改めて考え、YUMINOの一員として、在宅医療を通じて社会全体に貢献したいという気持ちが強まりました。地方から見たら、ICTを利用して在宅医療を推進しているのは先進的に見えましたし、これからの日本においては確実に必要なことと考えました。
-入職後1か月間を振り返っていかがですか。
- 在宅療養を行う心不全患者さんのなかに、予想以上に重症の方が多いことに驚いています。これまでの経験やスキル、知識を十分に生かせる場所だと思いますし、それを実践できるか試されているとも感じています。患者さん宅での限られた時間の中で、五感を最大限に駆使して診察し、先を予想して治療計画を立てるのはとても難しいですが、やりがいを感じます。そのうえで患者さんがその人らしい生活を送れるよう、過度な制限を課さず、未来に希望を持てるような診療を心がけています。
-印象に残っている患者さんとのやりとりはありますか。
- 偶然にも、奄美大島のご出身で補助人工心臓を付けていらっしゃる方の訪問診療に同行させていただく機会を頂戴しました。私がスマートフォンで島の写真を見せると、たいへん喜んでおられました。この時もそうですが、患者さんとご家族とは明るい話題を交えながら、病気や人生に対する向き合い方をいかにポジティブなものに変えていくかを考えながらコミュニケーションをとっています。患者さん、ご家族、医師、それぞれの立場から、その時その時の状況に応じたザ・ベスト、ザ・ベターは何かを常に考え、それを実現できる道筋を立てるよう意識しています。
-ともに働くYUMINOのスタッフや、働く環境に関して感じていらっしゃることがあればお聞かせください。
- まず、非常に多くの、しかも熱い志をもったスタッフが集まっていることに驚きました。職種や経歴は実に様々ですが、皆に共通して言えることは、それぞれが理想の医療の実現を目指し、そこに自分が関わりたいというモチベーションを持っていることだと思います。多職種間での情報共有や相談も行いやすい環境ですし、積極的にカンファレンスや必要に応じて勉強会を開催し、治療方針や支援の方法の統一を図るなど、各スタッフが協力して、チームとして一人ひとりの患者さんやそのご家族の生活、人生を支えていることを実感できています。 また、働く環境についても、個々の事情に応じてワーク・ライフバランスを考慮した勤務体系が組まれているように思います。まずは個々のスタッフが心身ともに健康であることを大切にし、余裕とやる気をもってよりよい医療の実践を目指せる環境を作ることを重視しています。多様な人材が多様な働き方で関わり、結果としてチーム全体として医療や地域社会をよりよいものにしようという法人の意気込みを感じますね。
-最後に、今後の意気込みをお願いします!
- 我々の考える医療や介護を押し付けるのではなく、我々と患者さん・ご家族からなるチーム全体で相談しながら、患者さんそれぞれの人生のドラマをいかに素敵と思えるものにできるのか、患者さんという主人公がいかに輝くことができるかを常に考えて医療や介護、支援を模索し実践していきたいと思っています。患者さん一人ひとりの人生の瞬間に多職種で立ち会い、関わることで、喜びも悲しみも皆で共有しながら患者さんの人生をよりよいものにしていきたい、そのお手伝いをしていきたいです。
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