2018年日本在宅医学会に参加して
4月29、30日の両日に渡り、東京品川にて行われた第20回日本在宅医学会に参加してきました。これまで日本在宅医学会をはじめ、在宅系の学会には多く参加してまいりましたが、今回は医師の参加が目立ち、特に病院の先生方が多くご参加されていたように感じました。まさに病院が在宅医療に真剣に向き合い始めていることの表れと考えます。これに伴い各セッションも目新しく目移りするような内容で、どれもこれも聴講したいものばかりが並んでいました。
大会全体を通じで感じるのは、理想論に成果が結びつき始めていることです。どの発表もあるべき論にとどまらず、実践の報告が伴っています。その中でも特に関心を持ちました内容を3つご紹介します。
○優秀演題口演3 病院と地域
大杉泰弘先生による「Community Hospital Japanプロジェクト」
地域医療を担う4病院がCommunity Hospital Japanプロジェクトという医師育成プログラムで連携し、どの程度在宅医療の担い手となる医師を育成でき、結果として在宅医療に貢献できているか実証中のものです。実際に、豊田地域医療センターでは昨年度103名の患者の在宅看取りを行っています。教育プログラムのご紹介もありましたが、その中に「経営・マネジメント」というカリキュラムがあることにも驚かされました。
○シンポジウム13 君はどんな医師になりたいのか~求められる「主治医」機能とは~
佐藤元美先生による一関市国民健康保険藤沢病院の取り組み「住民とともに創り上げる暮らしと命を守る医療」
5年間病院のなかった町に病院を創ったものの住民の生活はなかなか見えてこない。そこで「ナイトスクール」を開催し、患者(=住民)との意見交換を行いました。時に診療待ち時間の解消について、病院スタッフだけでなく住民を交えて議論したり、無診療投薬の是非を語り合ったり、と徐々に地域との垣根を取り除いていきました。その結果、患者のモラルアップ、クレーム減少、そして寄附までも増える結果となったそうです。医療を受ける人と提供する人の相互理解を生み出し、「おらが町のおらが病院へ」と育っていったのだと思います。それは研修医との交流にも表れ、住民が医師を育てるという気風までできてきたようです。この他、お年寄りのとっておきの話を病院スタッフが「聞き書き」して、製本して進呈するなど、様々なアイデアで地域と一体になっています。佐藤先生の言葉はこう結ばれます。「教えるよりは聞くこと、住民に問いかけ、住民の思いに応えていくことが大切だとわかった。残された職業人生はあまり長くはないかもしれないが、二つの宿題に答えを見つけつつある。私はなりたかった医師に近づいているように思う。」
○シンポジウム19 多様な医師の働き方と人材確保の戦略
小澤幸子先生による「在宅医療、国際医療協力とワークライフバランス」のお話
ハイチ共和国を支援するNGO代表を務めながら在宅医療に従事する小澤先生は、国際協力の中で医師を志し、文学部から転進、医学部へ進まれました。佐久総合病院、諏訪中央病院で研修中に地域医療を知ることとなり、やがて、医師として災害医療支援やハイチへの継続的な医療協力を続けておられます。この間、結婚、出産そして子育てとご自身のライフイベントも乗り越えながら今も精力的活動を続けておられそうです。実はこの口演の直後、ハイチへ旅立つ!とのこと。こうした活動を支える病院も凄いなと感じ入っておりましたら、なんと旧知古屋先生の病院でありました!流石です。
また、今大会では心不全のマネジメントや緩和ケアにも関心が寄せられ、心不全をテーマにしたセッションが複数設けられました。当院からも弓野医師、田中医師をはじめ、看護師、ソーシャルワーカーと多職種で発題の機会をいただきました。また名刺交換させていただいた先生方からも、「ゆみの」の名前を目にすることで、心不全患者の在宅医療に関するご質問をいただくなど、注目度の高さを再認識すると同時に、これからの社会への使命感も改めて身に浸みて感じた次第です。
たくさんの方々とお会いできお話を交わし、まだまだ情報整理しきれておりませんが、メモに書いた自分なりのキーワードを見返しながら、今日からできることをひとつずつこなして行こうと決意新たにした学会参加となりました。
医事部長 松本豊正